コーン茶

 実家の近くに面白いビルがある。1階と2階が店舗で、そこから上は住居なのだが、坂の途中に建っている関係上、1階の店舗と2階の店舗では入口が全然違うところにあるのだ。
 このビルには色々な店がテナントに入った。1階部分はカフェバーからうどん屋を経てラーメン屋になった。さらに同じラーメン屋でも経営母体は変わっている。
 2階部分は当初は1階と同じカフェバーだったが、そこがつぶれた後、焼肉屋となった。その後レストランからとんかつ屋をへて、現在はクイックマッサージの店となっている。今回の話は、その2階が焼肉屋だった時の話である。
 ある夜、なんとなく焼肉が食べたくなったのでその店に入った。すると店主も店員さんも向こうの方だった。とりあえずビールと焼肉のセットを頼んだ。それ自体は普通に美味しい、という感じだった。やや量的に物足りなかったので、追加で冷麺と別の酒を頼もうと思い、メニューを見た。
 すると、「真露(ジンロ・韓国の焼酎)」というものがあった。いわゆる焼肉屋の定番だが、当時学生だった筆者はそのような事を知らず、「さすが本場の人が経営しているだけある」と喜び、注文した。
 すると、店員から「水割りとロックとコーン茶割りがありますが、どれにしますか?」と尋ねられた。せっかく本場の酒にしたのだから、割るのも本場のものにしようと思い、コーン茶割りを頼むことにした。
 出てきたものを飲んだが、あまりの美味しさに驚いた。酒自体も良かったのかもしれないが、初めて飲んだコーン茶の味が鮮烈だったのだ。あっさりしているのに独特の味があり、香りもいい。試しに酒を飲まずにお茶だけ飲んでみたが、やはり非常に美味かった。
 「韓国にはこんなに素晴らしいお茶があるのか!」と感動した。しかしその後、焼肉屋に行くたびに「真露のコーン茶割り」を頼んだが、どの店にもなかった。しかも、どの店員さんもコーン茶の存在すら知らない、という感じだったのだ。
 最初に書いたように実家の近くの焼肉屋もすぐにつぶれてしまったので、コーン茶を飲む機会は、永久に失われてしまった。そして筆者の脳裏からもコーン茶という単語はほとんど風化していた。
 それから約10年ほどたった。インターネットの時代となり、筆者もネット通販でキムチを買ったりした。その店からメルマガが配信されたのだが、ある日そのメルマガに「コーン茶新発売!」と書かれていたのだった。「そうか、やはりあの店だけではないのだな」と非常に嬉しくなり、すぐに購入した。
 かつて店で飲んだものと全く同じ味まではいかなかったが、やはり記憶の彼方にあったあの味だった。あまりの嬉しさに普段飲まない真露を買い、またつまみ用にキムチも買って、純韓国産の晩酌を楽しんでいる今日この頃である。