アパート騒音問題顛末記

2013/9/21

 2月のある日の事だった。帰宅して、しばらくすると、男の怒鳴り声が聞こえてきた。
 相方によると、昼間から断続的にこんな感じで続いている、との事だった。
 とりあえず、音の発信源を調べてみた。
 我がアパートのあるあたりは、何棟もの集合住宅が並んで建っている。そのため、まずどの建物からこの怒鳴り声が発せられているかから調べた。
 その結果、その発生源が我が家の真下にある部屋から発せられていることがわかった。

 それ以降、我が家で平穏な夜を過ごすことはできなくなった。
 なにしろ、ほぼ毎晩、下から怒鳴り声が響いてくるのだ。
 日付が変わっても怒鳴り声がやまない日もあった。また、たまの休みの朝にゆっくり寝ようとしても、下からの怒鳴り声で目覚めることもあった。
 特に下からの音が響くのは浴室である。おかげで、ゆっくりできるはずの風呂の時間が、怒鳴り声にさらされる事も少なからずあった。
 さらに面倒なのは寝る時である。筆者は、仰向けに寝るより、横向きで片方の耳を枕に当てたほうが寝やすい体質だ。
 しかしながら、それをやると、枕と床を通して、怒鳴り声が聞こえてくる。おかげで、ただでさえ悪い寝付きがいっそう悪くなった。

 一日や二日ならまだ我慢ができる。しかし、それが毎日のように続くのだからたまったものでない。
 そこで、一週間後に、アパートを管理している不動産屋に苦情を言いに行った。
 我がアパートは8部屋という小さい建物だが、その中に通常の賃貸と、ウィークリー・マンスリーで貸している部屋に分かれている。そして、その真下の部屋はマンスリーとなっており、その日はそちらの担当がおらず、詳しい事は分からない、との回答だった。
 ただ、苦情があった以上調査はしてみる、また騒音を出さない旨を要望した文書を配布する、との事だった。
 そして数日後、返答がきた。本人に尋ねたところ、同居人に耳の不自由な人がおり、どうしても大声を出さざるをえない、という回答があった、との事だった。
 あの怒鳴り声は、「耳が遠いから仕方なく声を大きくしている」などというものでは断じて無い。だいたい、仮にそうだとしても、夜に大声を出していいわけがない。
 その旨を不動産屋に伝えておいた。
 とりあえず、その時に応対した店員さんは当方の言い分を理解してくれたと思っていた。しかしながら、それは甘い認識だった。

 その後も、下の部屋からの怒鳴り声がやむことはなかった。
 そこで、数カ月後、再び不動産屋に行った。
 話を聞いた結果、前回行った時の話はほどんど実行されていなかった。現場の調査もしていなかった。
 我が家から一度だけクレームが入ったが、その後は何も言ってこなかったので、そのまま放置していた、としか言いようがない対応だった。
 そこで、今後は怒鳴り声が出たらすぐに電話するから、必ず調べてほしい、と強く要望しておいた。
 そして実際に、それからは、怒鳴り声が聞こえるたびに不動産屋に電話する事にした。二度目の来訪の効果もあり、今度は反応が違っていた。実際に店員さんが現地に行き、住人が大声で怒鳴っている事も確認してくれた。
 この報告を聞いた時は、かなり安堵したものだった。

 とはいえ、その後も不動産屋からは「怒鳴り声問題などなかった事にしたい」という意図を感じる事が対応をされた事は何度もあった。
 とにかく、店に行くたびに「マンスリーの担当がいないので…」と言われたのには閉口した。確かに、こちらも仕事の関係で、不動産屋に行ける日は日曜に限られている。おそらく、「マンスリーの担当」さんはその日は定休日なのだろう。
 とはいえ、別に申し送りだの伝言くらいはできるだろう。必要ならば、「マンスリーの担当」の出勤日にこちらに電話してくれてもいいわけだ。
 また、店の責任者と話す機会も何度かあったが、たびごとに「クレームを入れているのはお宅だけです」と言われた。
 真上の部屋が一番音が響くから、一番被害が多いのが我が家になるのは当然の事だ。そのくらい、不動産のプロだから分かると思うのだが…。いずれにせよ、このような物言いをされると、何かこちらが針小棒大に騒ぎ立てていると先方は認識しているのでは、と思わざるをえなかった。。
 この時は、かなりの不動産屋に対する強い不信を感じたものだった。同時に、このまま怒鳴り声にされられ続け、こちらが転居せざるをえなくなるのでは、という不安を感じた。

 とはいえ、こちらとしては、怒鳴り声が出るたびに不動産屋に電話するしかない。
 もっとも、自分が家にいる時間は不動産屋は閉まっている。ひどい時など、午前2時過ぎても怒鳴り声が聞こえてきたりするのだ。
 というわけで、実際に「今、怒鳴り声が聞こえている」と電話できたのは全体の一割くらいにしか満たなかった。とはいえ、それでも週に何回かは不動産屋に電話する事になった。
 そしてついに、6月末に、不動産屋より「先方に直接、大声を出さないようにと要望しました。ついては、しばらく様子を見てほしい」という連絡が入った。
 実際、その日から怒鳴り声が響くことはなくなった。ただ、その静穏な日々は半月も続かなかったのだが…。

 不動産屋から下の部屋に通達した、という連絡がもらったのは6月27日だった。それからしばらくは静かになったが、7月9日から、また怒鳴り声が「再発」した。
 今更だが、怒鳴り声を挙げている男は、正常でないのだろう。とにかく、同居人を怒鳴りつけないと落ち着かない、という精神状態になってしまっているようだ。
 それからも、連日、怒鳴り声は続いた。
 6月に不動産屋に不信と不安を感じさせられる回答を貰って以降、こちらも何かの時のために、怒鳴り声が聞こえるたびに記録しておくことにした。
 その表を見ると、7月9日以降、ほぼ毎日、朝・深夜を問わず怒鳴り声が発生している。
 7月下旬に、一度静かになったのだが、これも長続きしなかった。8月4日から再発する。この頃になると、怒鳴り声のみならず、物を叩いたりひっくり返すような音まで頻繁に聞こえるようになった。
 お盆休みの期間は特にひどかった。そこで、盆明けに、不動産屋に行った。これで三度目となる。
 ただ、結果的に、これが「決定打」になったようだ。その後、しばらく怒鳴り声が続いたが、9月に入り、ばったりとやんだ。
 不動産屋に確認した所、8月末で契約を打ち切った、とのことだった。
 ちなみに、8月末に、その怒鳴り声の主が住む隣りの部屋の賃貸広告がネットに掲載された。店長は「お宅以外にクレームをつける人はいない」と言っていたが、この隣家の転居は、怒鳴り声と何ら関係無かったのだろうか、と気になった。

 というわけで、半年ぶりに、静穏な住環境を取り戻すことができた。
 我が家の生活という点では、これで一安心になったわけだ。
 ただ、これで全て大満足、という気分にはなれなかった。
 確かに我が家は静かになった。しかしながら、転居先でもその男は同じように家族を怒鳴りつけ、家庭内および真上の住人に迷惑をかけ続けるわけだ。
 それを考えると、さほど気は晴れなかった。
 もっとも、だからといって、自分が、下の家族の問題を解決する、などという事は、もちろんできない。自分の生活を守るのに精一杯、という状況だ。階下の家族の生活に介入する余裕などはっきり言ってない。

 なお、ここまで読んで、「なんで直接文句を言わないのだ?」と思った人もいるかもしれない。しかしながら、それがきっかけで、自分のみならず、家族が迷惑を被る危険性があった。それを考えると、とてもそんな事する気になれなかった。

 というわけで、色々な事に悩まされ、また考えさせられた半年間だった。

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