天才探偵ポアポア卿(ながいけん閣下)

2003/04/06

掲載・1987年のファンロード
 殺人事件の謎解きを主題にしたいわゆる「推理小説」は何万作も出版されている。また、最近は漫画でもヒット作が出ている。
 それらの「謎解き」の中で、犯人が判明するまでの時間が最も速いのはこの作品である。別に筆者は推理小説・漫画はクリスティを数冊だけ読んだだけ程度である。にもかかわらず、この作品が最速であり、しかも犯人特定の過程に一切無理がない事は断言できる。
 舞台はロンドンのある屋敷。そこで密室殺人事件が発生する。担当のリチャード警部は家にいた3人を集め、おもむろに「ではまず、犯人君」と質問する。対して中年紳士のチャーリーがつい「はい」と返事してしまう。直後にチャーリーは後悔するが、もう遅い。一方、リチャードは心の中でVサインだ。
 解決に要した時間は、コマ数にして2コマ、セリフは2つ。推理(?)の強引な論理展開も一切ない。
 筆者としてはこの作品の白眉はここにあると思っている。なにせ、この作品の打ちたてた「事件解決までの最短所要時間記録」を抜くのはどう考えても不可能だからだ。まさにコロンブスの卵的逆転の発想と言えよう。

 ストーリーのほうは、この事件解決の邪魔をされないために、リチャード警部による偽情報で関係ないアパートに行った「ポアポア卿」が、そこで寝ていた住人「ヤス(←ポアポア卿が勝手に命名)」を強引に助手にして解決後の現場に現れる。そこで勝手な理屈をつけて、「犯人はヤス」と主張し、一晩かけて密室の壁に穴をあけて「逃走経路」とし、さらに現場にヤスのサスペンダーを落として「物的証拠」とする。その強引な「推理・立証」を認めようとしないリチャード警部を脅迫して、強引に「ヤス」を逮捕させる、というものである。
 このへんのセリフのやりとりや、脅迫する時のポアポア卿の姿や仕草も非常に笑える。しかし、このような「証拠捏造による不合理な犯人特定」など、日本警察がよくやる事なので、あまりドラマ性はない。
 というわけで、この作品で最も心に焼き付いているのは、「推理作品史上最速の解決」をなさしめた「ではまず犯人君」「はい」なのである。