ナニワ金融道(青木雄二 氏)

2003/09/05

掲載・1990年から1997年のコミックモーニング
 この話が載っていた頃、モーニングを読んでいた。しかし、当時は「なんか雑な絵だし、内容も法律や金融の専門用語、あとえげつない固有名詞ばかりで、わけがわからない」と思い、ほとんど飛ばして読んいた。
 そして特に大きな盛り上がりもなく、連載は終了した。その時、作者の青木雄二氏が「これで漫画家は辞める」と宣言したのを知り、ちょっと驚いた。ただ、それもさほど記憶には残らなかった。
 その後、青木氏は、文筆業に転身。何度か読む機会があったが、漫画に対する高段に立った発言などには、「あの程度の絵しか描けなかったクセに・・・」と冷笑していた。ただ、その文章にあった、生い立ちから漫画家になるまでの自伝は、「普通の漫画家とは全然違う人生を送っているんだな」とちょっと驚いた記憶がある。とはいえ、基本的には本屋で見かける単行本も「ゼニの○○」みたいなものばかりで、「金融業漫画でアテた人が、それをネタに、金儲け本を書いて儲けているのかな」程度にしか思ってはいなかった。

 その青木氏への評価が変わったのは、偶然、氏の書いた文章にあった、自民党政府に対する痛烈な批判と、マルクス主義に対する強い賛同だった。まあ、最初のほうなら、それこそ小泉首相だってできる。ただ、「ソ連崩壊」以降に、マルクス主義を声高に主張できる、というのはなかなかできない。
 筆者は資本論を読んだ事はない。大学でマルクス主義的な講義を3つほど取っただけで、学問としての本格的な知識はない。もちろん、ソ連や東欧の崩壊が「マルクス主義の敗北」などとは思ってはいない。しかし、あれだけマスコミが「マルクス主義はソ連崩壊で滅びた」という中、それに公然と逆らう主張を繰り広げるとは一体どういう人だろうか、と興味を持ち、著書を何冊か読んでみた。
 そこには、とにかく現在の日本の困窮を、資本主義のもたらす必然的なものであることを、分かりやすい言葉で書かれていた。実経験と豊富な知識を元に書かれた文章は、強い説得力があった。

 その表現力に感心したこともあり、久しぶりに「ナニワ金融道」を漫画喫茶で読んでみた。そこには、普通に生活をしていながら、人間関係の不運や、ちょっとした失敗で、多額の借金をかかえ、無難な人生まで失った人々の姿が赤裸々に描かれていた。
 率直な感想は「面白い」ではなく「怖い」だった。これが実際に普通に起こりえる話であることは、新聞などのニュースにある、消費者金融に関する記事を読めばすぐにわかる。これまで、遠い世界の事だと思っていた「地獄」が、実はすぐそこに口を開けていて、いつでも嵌りうる、という事を知ったのだった。
 これだけのシビアな現実を題材にしながら、漫画としての話を成立させているのだから、かなりの技量だ。そう考えると、10年前の自分がいかに表面だけでこの作品を評価していたのか、と汗顔の至りだった。
 そしてついに2ヶ月ほど前に、単行本を買い揃えた。じっくり読むと、改めていかに深くかつ精魂を込めて作られているかがわかった。読むたびに新たな発見があるので、何度も読み返している。
 日本が資本主義社会を続けている間は、経済生活における必読書といってもいいのではないだろうか。特に、社会に出る前には一度は読むべき本である。

 なお、作者の青木雄二氏は、本日亡くなられた。40代半ばまで、苦労しつづけ、遅咲きの才能が花開き「人気漫画家」となった。しかしその称号を得た瞬間にあっさりと捨て、周りの風潮など気にせずに、自分の主張を書きつづけた。58歳とはいえ、あまりにも早すぎる死だと思う。もっと、この人には日本の政治・経済・社会への警鐘を鳴らしつづけてほしかった。謹んでご冥福をお祈りいたします。


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