ムウミン谷の攻防

 長い間いろいろな漫画を読んできたが、「笑撃を受けた」という事に関して、この作品の右に出る物はない、と今でも断言できる作品。
 題名の通り、「ムーミン」(70年代に放映されていたアニメ版)のパロディなのだが、キャラクターの改造度が尋常でない。「沈着冷静なギターの名手スナフキン」を、「食料を求めて、ギターの音波を使いムウミン谷の動物達を何匹も殺す、スナふきん」にし、彼を中心としたバイオレンスものとなっているのである。

 冒頭、ムウミンが「行ってきまーす」と行って遊びに行く。ここだけは、「ムーミン」にも存在しうる日常の一こまだ。しかし、次のコマから、そのムーミンキャラ達の特徴を残したまま、性格を大幅に改造したバイオレンスギャグが展開される。
 三コマ目に登場するのは、目を充血させたスナふきん(なぜか途中から平仮名)だ。いきなりアップで登場し、ムウミンに対して、「魚が公害汚染で絶滅した!」と訴えかける。さらに、「それ以来、まる三日、水とプランクトンしか食べていない」と言うのだ。
 この「プランクトン」にはかなり衝撃を受け、笑い出した。その時点では「なんだ、この凄く面白い漫画」だったが、十数秒後、読んでいて苦しみを覚えた。笑いすぎて呼吸困難の一歩手前に陥ったからだ。しかし、呼吸器官が拒否(?)しても、読むことを止めることはできなかった。
 対するムウミンもまた凶悪だ。そのスナふきんの懇願に対し、間髪入れずに拒否し、「ついてくるな!」と言い放つ。こちらは、スナふきんと違い、原作ベースの造形を保っている物だから、これがまた怖い。
 するとスナふきんは、得意のギターを取り出す。そしてアニメ同様に弾き出すのだが、聞いたムウミン谷の住人はアニメとは全く違う反応を見せる。曲が始まると、頭をかかえてのたうちまわり、「おんなじ曲ばっかで気がくるうー!」と叫ぶのだ。アニメでの、レパートリーが「おさびし山の歌」しかない、という事をネタにしたパロディだ。
 そのギターに対抗するために登場するのが、ムウミン谷総司令部に勤務するスノークだ。アニメの「いうなれば」という口癖はそのままに、戦闘用ロボットを指揮し、スナふきんを撃滅する。
 そして、スナふきんはアメリカ開拓時代の私刑のような形で殺される。それに対して、ミもフタもないないナレーションが入り、最後は「カッコいいなあ、スナふきん」で締められる。なお、余談だが、スナふきんは、「長井漫画大原則第一原則」により3ヶ月後に掲載された新作で復活している。

 筆者はこの作品が載っている号で初めてファンロードを読んだ。そして、次に読んだファンロードにもながい閣下のスナふきんネタの漫画が載っていたので、てっきり「この雑誌のエース漫画家はこの人なんだな」と思い込んでいた。そのため、この作品が、高校生による投稿だと後に知ったときは再び驚いたものだった。
 なお、本作は単行本「チャッピーとゆかいな下僕ども」(1989年ラポート刊・2004年大都社より大増補版として再発売)に収録されたが、筋立てはそのまま、内容は大幅に書き直されていた。
 冷静に読んでみると、書き直し版のほうが洗練されている。しかし、読んだときに受けたあまりの衝撃の強さもあり、読者の支持は初出版のほうが高い。そういう事もあり、単行本発売後、ファンロード増刊に初出版が再掲載された、という事もあった。