初代引田天功の手品・奇術入門

2003/06/05

 子供の頃、「小学館の入門シリーズ」というのを愛読していた。好奇心が旺盛だったので、野球・サイクリングといったスポーツから、天体観測・ペットの飼い方まで、ジャンルを問わず愛読していた。
 その中でひときわ心に残っているのが、この「手品・奇術入門」(引田天功監修)である。
 まず、巻頭カラーがすごかった。当時のトップ手品師だった、故・初代引田天功氏の「手錠をはめて水中の箱から脱出」などといった大掛かりな「マジック」を紹介している。あまりのすごさに、なんかフィクションの世界を見ているような感じだった。
 続いては、「世界の大奇術」ということで、「人体切断」とか「バラモンのロープに登って中空で消える少年」などというのがあった。こちらはタネあかしつきだったが、それでもちょっと怖かった。

 本文は、子供でもできるような手品を集めている。もっとも、そのうちの大半は火や薬品などを使うものだ。そういう手品には「ドクロマーク」がついており、目次には「ドクロマークのある手品は、おうちの方と一緒にやりましょう」みたいな注釈があった。この「ドクロマーク」がやけにもまた不気味だった。
 子供向けとはいえ、なかなか難しそうなものが多い。「普通に燃えているろうそくの火に念をこめると、花火みたいに激しく燃える(タネ・手の中にミカンを隠し持ち、その汁を炎にかける)」とか「ろうそくの炎を吹き消すと、赤いハンカチになる(タネ・ロウソクの頭と尻だけ切って、間を同じ色の紙筒でキセルのようにして、その紙筒にハンカチを入れておく)とか「クレヨンの箱から一本選んでもらい、それを見ないで封筒に入れるて何色かを当てる(タネ・封筒に入れる際にクレヨンを爪でひっかいて色を見る)」などがあった。
 また、文中には初代引田天功氏の写真がふんだんに使われていた。巻頭で超人的なマジックをやった人がそれらの手品をやっているわけで、その事がより一層、紹介されている手品の格調を高めていた。

 これだけだったら、別にこの本は、単なる入門書シリーズの一つでしかなく、心に残る事はなかった。それがなぜ心に残る本になったのかは、本書の最後を飾った手品が原因だ。そのトリを飾る手品の表題は「トンチ手品」という題名だった。使うものはマッチ箱のみ。マッチを使うのにも関わらず、「ドクロマーク」はついていなかった。
 手品の紹介文は「これから皆さんを旅行に招待します。一瞬のうちに箱根、続いて函館にご案内します」みたいな事が書いてあった。当時の筆者は箱根はなんとなく見当がついたが、函館などという地名はまだ知らなかった。したがって何がなんだかよくわからない。
 そして、引き続き「たねあかし」のコーナーを見る。そこには海中脱出も裸足で逃げ出すような想像を絶する「タネ」が暴かれていた。
 まず、マッチ箱を寝かせます。これで「ハコネ」。続いてマッチ箱を立たせます。これで「ハコダテ」
 函館がどこにあるか知らない当時の小学生の筆者でも、「なんじゃこりゃ、なめとんのか」と思った。だいたい、これのいったいどのへんが「手品・奇術」なのだろうか。仮に「これから手品をやります」と言ってマッチ箱を寝かせたり立てたりする。それを「ダジャレ」と認識してもらえる(面白いかどうかは別として)可能性はあるかもしれないが、「手品」として認識してもらえるのだろうか。
 こういうわけで、この「一瞬にして箱根、さらに函館に行く手品」は「手錠をして水中から脱出」などよりずっと強く筆者の心にやきついた。ぜひ一度、この「手品」を行う「手品師」を見てみたいものである。
 なお、さすがにこの「手品」は不評だったのか、第2版発行の際には削除されてしまったようだ(※現在は絶版)。

 参考サイト・LILLIPUT−MAGIC−HP内の古書一覧


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