「聖の青春」の帯(羽生善治氏)

2002/07/30

 将棋のプロ棋士に村山聖(さとし)さんという方がいた。筆者と誕生日が1ヶ月も違わないのと、将棋プロ随一の漫画ファン(愛読書に「秋月りす」と書いたこともあった)なので、なんとなく親しみを持っていたのだが、生まれた時から患っていた腎臓病が悪化してガンになり、1998年の8月に29歳の若さで夭折した。
 その村山さんの伝記を「村山さんの師匠の親友」とかいう雑誌編集者(当時)が出版した。本を手に取ったところ、帯に将棋界の第一人者である羽生さんが「推薦文」を書いていた。
 まず最初に彼は、本当に、本物の将棋指しですで始まり、故人の人柄をたたえたあと、私は最後まで一気に読みました。同世代として誇りに思います。と結んであった。
 羽生さんは東京在住、村山さんはほとんどが大阪在住(晩年の数年間は東京で生活、最晩年は故郷の広島に戻った)なので、プライベートな交流がさほどあったとは思えないが、盤上では激しい戦いを繰り広げた仲である。全身全霊を込めて戦った同士だから分かる「何か」があり、それゆえに羽生さんは「本物の将棋指し」「同世代の誇り」と書いたのだろう。
 さらに言えば、その戦いによって知りえた以上のものが「聖の青春」なる文章になかったからこそ「一気に」読んだのだろう。居酒屋のビールやサワーを一気飲みする人はいても、越乃寒梅やコニャックを一気飲みする人はいない。

 というわけで、この帯の文の中身の濃さと奥の深さには深く感銘を受けた。そしてその結果として、帯だけ読んで本を開かなかったのは言うまでもない。


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