野原のなかの新交通

 鉄道の一種として新交通システムというものがある。何か斬新なもののような語感があるが、すでに登場してから20年以上たっているので、実際は「やや新しいとも言える交通システム」といったところだろう。
 専門用語で言うと「案内軌条式」というらしい。線路の替わりに真中に一本のレールのようなものがあり、これを車体中央の車輪(?)で挟む。これが進路決定兼電力供給の働きをする。実際に車体を支えるのはゴムのタイヤである。したがって騒音が低い。また、自動運転化がなされており、車掌のみならず運転士もいない。車両一両の大きさはマイクロバスくらいで、それが何両かつらなって走る。
 運用されている場所は大きく分けて「埋立地」と「郊外」も分かれる。埋立地を走るものとしては東京・有明地区の「ゆりかもめ」・神戸の「ポートライナー」「六甲ライナー」・大阪の「南港ポートライナー」横浜の「シーサイドライン」がある。
 一方、郊外を走るものとしてはさいたま市の「ニューシャトル」・愛知県小牧市の「ピーチライナー」広島市の「アストラムライン」西武ライオンズ球場と西武遊園地を結ぶ「レオライナー」などがある。また、札幌の地下鉄も原理的にはこの新交通システムに近いようだ。

 今回乗った山万という不動産会社が運営するユーカリが丘線は、千葉県佐倉市の新興住宅街と京成線を結ぶ、郊外型の新交通システムである。歴史的には神戸・大阪に次ぐ三番目の古さだ。
 駅は全部で6駅で、テニスラケットのような形をした路線である。駅名も単純で、「地区センター駅」「公園駅」「女子大駅」「中学校駅」と固有名詞をつけない駅がほとんどだ。
 これまで、埋立地を走る新交通システムはほとんど乗ったが、郊外型に乗った事はなかった。特にこの路線は不動産会社が経営していることからもわかるように、不動産開発と一体で作られたという珍しい経緯がある。ついでに言うと、京成線との接続駅である「ユーカリが丘駅」もこの路線にあわせて開業している。
 そのような経緯は知っていたので、京成線のユーカリが丘駅の改札を出たらユーカリが丘線の駅があるのかな、などと思っていた。しかし、駅を出てからユーカリが丘線の改札までは距離もあるしわかりにくかった。
 また、京成線との接続も考慮されておらず、筆者が行った時も、改札で切符を買おうとしたらユーカリが丘線は出たばかりであった。次の発車まで20分近くもある。そこで駅前で時間をつぶした。
 駅はなかなか立派で駅ビルにはホテルも入っている。その壁には「ユーカリが丘駅に特急を止めよう」というのぼりがあった。また、駅前広場を渡ったところには大きなスーパーもあった。そしてやはり目立つのはユーカリが丘線の高架である。
 その高架の向こうから列車が来たので、駅に入る。日曜の16時過ぎだったが、降りる人も乗る人もあまりいなかった。製造年を見ると開業からずっと使われている車両のようだ。あと、これまで乗った新交通システムとの最大の違いが駅の構造。埋め立て地のものはいずれも無人運転を前提としているため、ホームドアがある。しかし、ユーカリが丘線にはそれがなく、その点でものどかだった。
 発車してすぐ次の駅「地区センター」に止まる。「ユーカリが丘」駅から見えるほどの近さだ。続いて「公園」駅。ここから線路は二つに分かれ、環状運転のようになる。ちなみに反時計まわりのみで、逆はない。
 乗る前はこのあたりから高層団地が林立するのかと思ったが、そのような事はなかった。テニスラケットの外側にあたる部分にはそこそこ建築物もあったが、ガットにあたる部分はほとんど手の加えられていない野原がほとんどだった。しかも次の「女子大」駅は、ただ単に「女子大をここに呼ぶ予定があった」というだけのネーミングであった。それにしても20年以上もその名前を使いつづけているのだからすごい。以下も同じような風景が続き、一周して「公園」駅に戻った。そして一つ手前の「地区センター」で降りた。改札は先ほど見た駅前広場のスーパーの裏口と直結していた。

 簡単に一回りしただけだったが、このユーカリが丘というニュータウンは、「構想通り完成はしなかったものの、一つのニュータウンとしてそこそこ完成して機能している」という感じだった。ただ、新交通システムがあるとはいえ、やはり交通の不便さは相当なものなので、住もうという気は残念ながらおきなかった。